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執筆者の写真Danny

守破離

更新日:5月24日



ザ・キャンプムエタイアカデミーには世界の色々な国から様々な人がトレーニングにやってきます。20245月現在71カ国からゲストをお迎えしました。ちなみになんと157カ国からお問い合わせが来ています。現時点の世界の国の数が196カ国ですから、本当に世界中でムエタイの関心が高まって来ているように思います。


ゲストの目的や想いは人それぞれ。


  1. せっかくタイに遊びに来たのでタイの国技「ムエタイ」を体験したい

  2. キックボクシングをやっているので本場のムエタイジムでトレーニングしたい

  3. ムエタイやってる格好いい自分の姿をSNSにアップしたい

  4. とにかくダイエットしたい

  5. ストレス発散。思う存分ミットに拳をぶっ込みたい!

  6. 今の自分のスキルをもっと向上させたい

  7. 試合に出たい。プロになりたい

  8. 次戦のための試合対策(主にアマチュア選手やプロ選手)


当ジムでは次のようにゲストのスキルレベル分けをしています。

※ トレーニングの年数だけでなく、技術の習熟度など個人差による部分が大きいのであくまでも目安にすぎません。


  1. Novice (素人):全くの初めて

  2. Absolute Beginner : 初心者🔰(トレーニングはじめて1年以内)

  3. Beginner :初級者(トレーニングはじめて3年以内)

  4. Intermediate : 中級者(トレーニングはじめて3-5年以上)

  5. Advanced / Professional :上級者(トレーニングはじめて7年以上/プロ選手)


割合でいうとだいたいNovice20%, Absolute beginner40%, Beginner30%, Intermediate 3-4%, Advancedに至っては1-2% といったところでしょうか。

やはり圧倒的に初心者・初級者が多い印象です。


当ジムでは必ずトレーニング前に以下についてヒアリングしています。

1. トレーニングに来た目的

2. 経験の有無 

3. 怪我や既往症の有無 

4. 現在のフィットネスレベル 


さらに、シャドーボクシングを見ればその人のスキルレベルはほぼわかるので、経験者の方々には必ずシャドーボクシングをしていただき、トレーナーのほうでスキルレベルチェックを行うようにしています。


<ジムのゲストあるある>


経験の有無について聞くと、「キックボクシング5年やってます」とか「ムエタイ歴3年です」みたいな人たちは割と多いです。本人は自信満々ですが、ほぼ例外なくほとんどが初級者レベルと言わざるをえません😅ほぼフィットネスボクササイズのレベルです。

特に欧米人に多いのですが、とにかくデカくてマッチョで、力に任せてブンブン腕を振ってるだけの人や、どこで習ったのかムエタイとは程遠い、サッカーのようなヘンテコなキックを蹴る人たちもたくさんいます。筋力があって本人に妙な自信や経験があるので、こういう人たちは一番厄介です。長年染みついた変な癖だらけでどこから手をつけていいのかトレーナーたちも困惑してしまいます。

確かに週に数回、仕事終わりに1時間程度のグループレッスンに参加しているくらいでは何年やっててもその程度でしょう。特にヨーロッパではそもそもトレーナーがいないので1名のトレーナーが20人の生徒を指導するというようなジムが普通です。総じてゲストの申告する経験年数と本人のスキルレベルとの間には大きな乖離があります。我々のゲストのほとんどが初心者・初級者であるとする理由はここにあります。


また良くある話ですが、いろいろなジムを渡り歩いて道場破りをしに来る輩もいます。以前の投稿でも書きましたが、タイのムエタイジムでのスパーリングは、きちんとしたトレーニング目的に沿って、トレーナーやジムオーナーとの合意のもとで行われるものです。

ある日フィンランドからやって来た195cm,90kgの若い男性。聞けばムエタイ歴5年でヨーロッパで試合にも出たことがある、過去プーケットのムエタイジムでも数ヶ月練習したことがある、とのことでした。スパーリングがしたいとのことだったので、限定マススパーリングを条件に許可しました。軽いテクニックスパーリングのはずが始まってみると、ザ・ストリートファイト!😅タイ人は小柄なのでいくら彼が下手くそとはいえ、195cmもの白人の大男に勝てるわけありません。本人は本場ムエタイの選手たちを打ち負かしたと満足そうでしたが、普段サバイ・サバーイな温厚なタイ人たちも流石にブチ切れてました💢

のちに聞くところによれば、この男性はうち以外にも他のいろいろなジムに行ってスパーリングでタイ人をボコボコにしてたようで、瞬く間にその情報がシェアされ、その後チェンマイじゅうのジムの間で要注意人物扱いとされ出入り禁止になってしまいました😅


比較的日本から来る選手に多いのが、うちのジムに来て、11回または2回程度のセッションに参加して、本人はめっちゃ練習した気になって満足して、結局何も身に付かずに帰国するパターン。

当ジムの宿泊トレーニングパッケージには毎日4セッションのトレーニングが含まれていています。しかもトレーニングはほぼマンツーマン。90分間トレーナーがほぼつきっきりでトレーニングしてくれるのにもかかわらず、このせっかくの貴重な時間の価値を理解してない人も多いです。(日本でこんなに手厚いジムはないと思いますが。。。)

当ジムに観光やストレス発散目的で来られる方は別として、純粋に格闘技が上達したい人やこれから選手を目指している人、もうすでにプロとして活躍している人には、トレーニングの目的を今一度明確にしていらしていただきたいです。せっかく貴重な時間を使い、高いお金を払って、わざわざタイのしかもさらに北部のチェンマイにまで来るのですから、可能な限り多くのセッションに参加していただき、スキルの向上に努めていただきたいと思います。こういう話をすると、「練習しすぎも良くない」とか「某有名選手は毎日2時間しか練習してないとか」とか、練習しないための言い訳が聞こえて来そうですが😅(笑)そういう方はまずはフロイドメイウェザー選手や井上尚弥選手と同様の練習量をこなせてから言って欲しいものです。今のあなたには所詮それだけの練習をこなす体力がないだけであり、そもそも世界の頂点に立つことのできるような才能に恵まれた選手でない以上、誰よりも努力して練習しなくてはいけないはずです。なので上手くなりたいならつべこべ言わず、限られた貴重なここでの時間を惜しまず、ひたすら練習に打ち込んで欲しいのです。ここはそのための環境は完璧に揃っていますので。

ゲストの中にはトレーナーにいちいち指摘されたり直されたりするのが不愉快な人もいて、「いちいちうるせえ、俺流でやらせろ!」みたいにいきなり怒り出す人も一定数います。

うちに何しに来てるのかな?と思うことがよくあります。海外のジムにトレーニングしに来る以上、自分の中の「俺流」にこだわるのもどうかと思います。


このようにいろいろな人が様々な思いや目的でこちらのキャンプにトレーニングにやって来ますが、今回は「基本」についてお話ししたいと思います。


当ジムではもっとも普遍的である「基本」に立ち返り「基本」を忠実にマスターすることに最大の重点を置いています。トレーニングは至極単純で、ゲストのスキルレベルや経験に関わらず、まずは徹底的に基本の「型・形」を示し、反復ドリル練習を通じてそれを習得していただくだけです。もちろん自らの所属しているジムやトレーナーのスタイルによって教え方はそれぞれです。そもそも人それぞれ手足の長さ、関節の可動域や柔軟性などの身体的な差異や、体力差、年齢、性差などもあるので、「スポーツにおいてすべての人にハマる普遍の動きなどない」ということは十分に認識しています。したがってステレオタイプ的に「こうしなさい、ああしなさい」「この動きが正しい」「これはダメ」と紋切り型の指導をしたいのではありません。ただそれでも基本は大切なのです。

結局のところ、何年どこのジムでどんなにトレーニングしてこようが、パンチの際にガードを忘れてしまっていたり、平手打ちのようなフックを打ったり、股関節がまったく使えない動きしかできないなど、そもそもの基本中の基本ができていないようでは、いくら練習してもその先の上達は見込めません。


さて、基本の習得においては、当ジムではどこよりも「型・形」にこだわっています。

これは空手道、柔道、合気道、居合道、茶道、華道など、日本の武道・文化の習得に通ずるところがあります。


まずは基本の動き「型・形」を忠実に真似ることを最優先します。「学ぶ」とは「真似ぶ」ことです。上級者たちの無駄のない洗練された動きを見ていると、実に美しい動きだと思いませんか?なぜなら美しい「型・形」とは先人たちが長い歴史の中で試行錯誤し、可能な限り無駄を削ぎ落とした究極の産物であり、それが無駄のない再現性の高い「美しい動き」として今日に至っているからです。 でも、たとえどんなに力任せで不格好な大ぶりのパンチであってもパワーで相手を倒せるなら、仮に手打ちであってもそのパンチは是とされるべきではないか?という疑問も浮かんできますよね。


結論から言えばYESです。パンチの究極の目的は相手をリングに沈めることなので、乱暴な言い方をすれば「手段」、すなわち美しい型・形などどうでもよいとも言えます。

ストレートやフック、アッパーなどのパンチを美しく無駄のない動きで「型・形」どおりに打つことは究極の「目的」を達成するためのあくまでも「手段」に過ぎないからです。なのであまりに過度に「型・形」にこだわり過ぎてしまうと、相手を倒すという本来の目的から外れてしまう弊害も生まれます。型と実践は違うと言われる所以です。例えばよく初級者にありがちな勘違いで「ストレートパンチは相手に向かって真っ直ぐ腕を突き出す」というものです。形の上では間違ってはいませんが、相手をKOするパンチとは大きく違います。


パンチの究極的な「目的」はあくまでも相手をKOすることです。KOする可能性が低いパンチを無駄に打つことは体力の消耗でしかありません。KOパンチとは拳で相手の顎やテンプルを的確に捉えて、頭蓋骨を回すことで脳震盪を引きおこすことです。力任せに相手の顔面に向かって拳をぶつけて相手の鼻を折ることでも顎を砕くことでもありません。ほんの10カウントの時間だけ相手に寝てもらえばよいだけなのです。そのためには腕の曲げ伸ばしや単に腕を振るのではなくより精緻な「ナックルコントロール」が大切になってきます。メイウェザーが日々やっているあの謎の高速ミット練習ですね。どんな角度からでもどんなタイミングからでも的確に拳で顎やテンプルを捉える感覚を養っているのです。特に試合に出るような中級者以上の方はナックルコントロールがより大切になってきます。


それではもはや「型・形」にさほどこだわる必要はないのでしょうか?

パンチにおいて最も大事なのは再現性(reproducibility)と一貫性(consistency)です。

ゴルフをイメージするとわかりやすいですが、1発のドライバーコンテストであればマン振りしてたとえまぐれでもボールにスクエアにフェイスがジャストミートすれば、優勝できる可能性もあります。でもゴルフトーナメントとなると話は別。たった一回のミステイクが命取りとなります。

格闘技も実はこれとまったく同様です。ムエタイは5ラウンド、ボクシングは12ラウンドです。つまり一発勝負のドラコン選手権ではなく、ラウンドを重ねる中で再現性の高いパンチを繰り出し、決して命取りとなるようなミスを犯さない、という点などにおいては、ゴルフトーナメントと同じなわけです。正しい「型・形」のトレーニングとは正確性と再現性を磨くためのものなのです。ですから、特に初心者・初級者はまずは正しい動きを身につけることが大切だと思います。


茶道には「守破離」という求道の考えがあります。

「守」とは、師や流派の教え、型、技を忠実に守り、確実に身につける段階。

「破」とは、他の師や流派の教えについても考え、良いものを取り入れ、心技を発展させる段階。

「離」とは、一つの流派から離れ、独自の新しいものを生み出し確立させる段階です。


ムエタイやボクシングなどの格闘技においてもこの考えは当てはまると思います。

ボクシングの井岡一翔選手をみていて、あそこまで基本に忠実であるからこそ世界の頂点に立つことが可能なのだと改めて思います。

まずは、教科書通り基本の正しい動きをしっかりと身につけて、それを完全に自分のものにする。それができるようになったら今度は新しい理論や他の選手の動きなどもどんどん取り入れてみる。試行錯誤と長年の研究を積み重ねを経たのち、いつの日か一皮剥ける瞬間が来ます。その時いよいよ自分独自のスタイルが確立するのです。


昨今では人はとにかく急いで目先の結果のみを求めがちですが、基本の積み重ねの先にしか真理はありません。 世界のトッププロ選手たちも例外なく「はじめての日」があり、そこではみなさんと同じように見よう見まねで基本の構えやジャブの練習からスタートしたはずです。忠実に基本を「守」るという、地道で長きにわたる段階を経て、今の彼らがあるのです。


常に「基本」に立ち返り、その盤石な「基本」から生み出される究極の「美しい動き」を身につけてください。

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